相続放棄の期限は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。この3ヶ月の期間を「熟慮期間」と呼び、この期間内に相続人は、相続財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を調査し、相続するか、それとも放棄するかを検討し、家庭裁判所に申し立てる必要があります。
相続放棄の原則的な期限と起算点
相続放棄の期限を定めているのは民法第915条です。同条には「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純承認若しくは限定承認又は放棄をしなければならない。」と明記されています。
出典:民法第915条(e-Gov法令検索)
この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、具体的には以下の両方を知った時を指します。
1. 被相続人が亡くなったこと(相続の開始)
2. 自分が相続人であること
例えば、被相続人が2026年1月1日に亡くなり、その死亡と自分が相続人である事実を同日に知った場合、相続放棄の期限は2026年4月1日となります。ただし、先順位の相続人が相続放棄をしたことで、初めて自分が相続人になったことを知った場合は、その知った時から3ヶ月が起算点となります。
熟慮期間の延長について
相続財産の調査に時間がかかり、3ヶ月の熟慮期間では判断が難しい場合もあります。このような場合は、家庭裁判所に申し立てることで、熟慮期間を延長することが可能です。延長の申し立ては、原則として3ヶ月の期間が満了する前に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。
延長申し立ての手続きと費用(2026年現在):
* 申立先: 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
* 費用: 収入印紙800円、連絡用の郵便切手代(裁判所によって異なるが数百円〜千円程度)
* 必要書類:
* 相続の承認又は放棄の期間伸長申立書
* 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
* 申立人の戸籍謄本
* その他、相続関係を証明する戸籍謄本など
延長が認められるかどうかは、財産調査の難易度や親族関係の複雑さなど、個別の事情によって家庭裁判所が判断します。一度の申し立てで、さらに3ヶ月程度の延長が認められるケースが多いですが、複数回延長が認められることもあります。
3ヶ月の期限を過ぎてしまった場合の注意点
原則として、3ヶ月の熟慮期間を過ぎてしまうと、相続人は単純承認をしたものとみなされ、相続放棄はできなくなります。単純承認とは、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産(借金など)も全て引き継ぐことです。
ただし、例外的に3ヶ月を過ぎてからでも相続放棄が認められるケースがあります。これは「相続財産が全くないと信じており、かつ、そう信じたことに相当な理由がある場合」など、非常に限定的な事情がある場合に限られます。例えば、被相続人に多額の借金があることを、期限後に初めて知ったようなケースです。しかし、この判断は非常に厳しく、認められるハードルは高いのが現状です。
また、熟慮期間中に相続財産の一部を処分したり、借金の返済をしたりする行為は「法定単純承認」とみなされ、意図せず相続を承認したことになってしまうため、注意が必要です。
まとめと専門家への相談
相続放棄の期限「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」は、非常に厳格なルールです。この期間内に、相続財産の全容を把握し、適切な判断を下すことは、一般の方には難しい場合も少なくありません。
特に、相続財産が複雑な場合や、借金の有無が不明な場合、また3ヶ月の期限が迫っている場合は、速やかに弁護士や司法書士といった相続の専門家へ相談することをお勧めします。専門家は、財産調査のサポート、熟慮期間伸長の申し立て、相続放棄の手続き代行など、状況に応じた適切なアドバイスとサポートを提供してくれます。2026年現在の情報として、後悔のない選択をするために、早めに専門家へご相談ください。
参考・出典
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件については弁護士・税理士・葬儀の専門家にご相談ください。
掲載情報は2026年現在のものです。法改正等により変更となる場合があります。
よくある質問(詳細版)
Q1:相続放棄の熟慮期間は延長できますか?
A1:原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」と定められている熟慮期間ですが、家庭裁判所に「相続放棄の熟慮期間伸長の申立て」を行うことで延長が認められる場合があります。この申立ては、原則として熟慮期間が満了する前に行う必要があります。延長期間は事案によって異なりますが、一般的には1ヶ月から3ヶ月程度の延長が認められることが多いです。特に、相続財産の調査に時間がかかる場合や、海外に居住している相続人がいる場合などに考慮されます。申立てには、収入印紙約800円と郵便切手代(約400円〜1,000円程度)が必要です。
Q2:相続放棄にかかる費用はどれくらいですか?
A2:相続放棄の手続きにかかる費用は、主に家庭裁判所への申立て費用と、専門家へ依頼する場合の報酬に分けられます。家庭裁判所への申立て費用としては、収入印紙代が約800円、連絡用の郵便切手代が約400円〜1,000円程度(管轄の裁判所によって異なります)かかります。弁護士や司法書士に手続きの代行を依頼する場合は、別途専門家報酬が発生し、事案の複雑さにもよりますが、約5万円〜30万円程度が目安となります。ご自身で手続きを行う場合は上記の裁判所費用のみで済みますが、書類作成や手続きの正確性を考えると専門家への相談も検討すると良いでしょう。
Q3:相続放棄に必要な書類は何ですか?
A3:相続放棄の申述には、主に以下の書類が必要です。
1. 相続放棄申述書:家庭裁判所のウェブサイトからダウンロードするか、窓口で取得できます。
2. 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本:被相続人の死亡が確認できる書類です。
3. 被相続人の住民票除票または戸籍の附票:被相続人の最後の住所地を確認します。
4. 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本:申述人が相続人であることを証明します。
これらの他に、申述人と被相続人の関係によって、出生から死亡までの被相続人の全ての戸籍謄本や、先順位の相続人が相続放棄したことを証明する書類などが追加で必要になる場合があります。
Q4:相続放棄すると、その後の相続はどうなりますか?
A4:相続放棄が家庭裁判所で受理されると、その相続人は初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法第939条)。これにより、その人の相続分は次順位の相続人に移ります。例えば、子が相続放棄をした場合、被相続人の親(直系尊属)が、親もいない場合は被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。このため、相続放棄をする際は、次順位の相続人にその旨を伝えるなど、事前に連絡を取ることが望ましいです。連絡がないと、次順位の相続人が突然負債を背負うことになり、トラブルに発展する可能性があります。
Q5:相続放棄後に、新たな借金が見つかった場合はどうなりますか?
A5:相続放棄が家庭裁判所で正式に受理された後であれば、原則として、後から見つかった被相続人の借金について責任を負うことはありません。相続放棄は、被相続人の全ての財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を一切承継しないという効力を持つためです。しかし、熟慮期間中に相続財産の一部を処分したり、隠したりする行為があった場合、それは「単純承認」とみなされ、相続放棄が無効になる可能性があります。そのため、相続放棄を検討する際は、熟慮期間内に可能な限り徹底した財産調査を行うことが重要です。
Q6:生命保険金は相続放棄の対象になりますか?
A6:一般的に、生命保険金は、保険契約において受取人が指定されている場合、その受取人固有の財産とみなされ、相続財産には含まれません。そのため、相続放棄をした場合でも、指定された受取人は生命保険金を受け取ることが可能です。ただし、受取人が被相続人本人と指定されていたり、保険契約の内容によっては、生命保険金が実質的に相続財産とみなされるケースも存在します。また、相続税の計算においては「みなし相続財産」として扱われることがあります。不明な点があれば、保険会社や専門家に確認することが重要です。
比較・選択肢の整理
相続が発生した際、相続人には「単純承認」「限定承認」「相続放棄」の3つの選択肢があります。それぞれの特徴を理解し、自身の状況に合った選択をすることが重要です。
| 選択肢 | 費用 | 期間 | メリット | デメリット | こんな人向け |
|---|---|---|---|---|---|
| 単純承認 | ほぼなし | 熟慮期間3ヶ月以内 | プラスの財産もマイナスの財産も全て承継。特別な手続きが不要。 | 負債も全て承継するリスクがある。後から負債が見つかると対応が困難。 | 借金がなく、プラスの財産が明らかに多いと確信できる人。 |
| 限定承認 | 約800円〜数十万円程度 | 熟慮期間3ヶ月以内 | プラスの財産の範囲内で負債を弁済できるため、自己の財産は守られる。 | 手続きが複雑で手間がかかる。相続人全員の合意が必要。 | 財産状況が不明確で、負債があるかもしれないが、プラスの財産も残したい人。 |
| 相続放棄 | 約800円〜数十万円程度 | 熟慮期間3ヶ月以内 | 被相続人の借金や負債を一切背負わずに済む。 | プラスの財産も一切受け取れない。次順位の相続人に影響が及ぶ。 | 借金が明らかに多く、相続したくない人。特定の財産を受け取りたくない人。 |
事前準備チェックリスト
相続放棄を検討する際に、実行前に確認すべき項目をまとめました。
- □ 熟慮期間(自己のために相続開始を知った時から3ヶ月)の起算日と期限を正確に確認する。
- □ 被相続人の財産状況(預貯金、不動産、有価証券、借金、保証債務など)を可能な限り徹底的に調査する。
- □ 被相続人の死亡診断書(死体検案書)の写しを用意する。
- □ 被相続人の住民票除票または戸籍の附票を取得する。
- □ 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)を取得する。
- □ 申述人(相続放棄をする人)自身の戸籍謄本を取得する。
- □ 家庭裁判所に提出する相続放棄申述書を正確に作成する。
- □ 家庭裁判所に納める収入印紙(約800円)と郵便切手(約400円〜1,000円程度、裁判所により異なる)を用意する。
- □ 熟慮期間の延長が必要な場合は、期限内に家庭裁判所へ伸長申立てを行う。
- □ 相続財産に手を出したり、処分したりする行為(預貯金の引き出し、不動産の売却など)を避ける。これらの行為は単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなるリスクがある。
- □ 相続放棄が受理された場合、次順位の相続人に相続権が移ることを理解し、必要に応じて連絡を検討する。
- □ 相続放棄の手続きに不安がある場合や、財産調査が困難な場合は、弁護士や司法書士などの専門家への相談を検討する。
関連する法律・制度と公的情報源
相続放棄は、日本の法律に基づき行われる重要な手続きです。ここでは、相続放棄に関連する主要な法律・制度と、その公的情報源を紹介します。
民法
- 根拠条文名: 民法第915条(相続の承認及び放棄をすべき期間)、第938条(相続放棄の方式)、第939条(相続放棄の効力)
- 概要: 相続放棄の根幹を定める法律です。相続放棄の熟慮期間(3ヶ月)や、家庭裁判所に申述するという手続きの方式、そして放棄が受理された場合に初めから相続人ではなかったとみなされる効力について規定しています。
- 公的情報源: https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089 (e-Gov法令検索)
戸籍法
- 根拠条文名: 戸籍法第10条(戸籍に関する証明書の交付)
- 概要: 相続放棄の手続きで必要となる戸籍謄本や住民票の除票といった、個人の身分関係や居住地を証明する書類の取得に関するルールを定めています。これらの書類は、相続人であることや被相続人との関係を証明するために不可欠です。
- 公的情報源: https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000224 (e-Gov法令検索)
家事事件手続法
- 根拠条文名: 家事事件手続法第268条(相続の放棄等の申述)
- 概要: 家庭裁判所で行われる家事事件全般の手続きについて定めた法律です。相続放棄の申述も家事事件の一つであり、本法によって具体的な申立ての方法、審理の流れ、裁判所の役割などが規定されています。
- 公的情報源: https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=423AC0000000052 (e-Gov法令検索)
🛠 相続税かんたん試算ツール (無料・あなたのペースで)基礎控除 (3,000万円+600万円×法定相続人数) で申告要否を即時判定 (無料)相続税かんたん試算ツール を使う →