公正証書遺言と自筆証書遺言は、どちらも法的に有効な遺言書ですが、作成方法、費用、法的安定性、手続きの手間において大きな違いがあります。端的に言えば、公正証書遺言は費用がかかるものの法的な確実性が高く、自筆証書遺言は費用が安い反面、形式不備や紛失のリスクを伴います。
公正証書遺言と自筆証書遺言の比較(2026年時点)
1. 公正証書遺言
- 作成者: 公証役場の公証人
- 作成手続き:
- 公証役場に出向き、公証人に遺言内容を伝え、作成してもらいます。
- 2人以上の証人が必要です。証人は公証役場で手配してもらうか、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することも可能です。
- 遺言者、証人、公証人が内容を確認し、署名・押印します。
- 原本は公証役場に厳重に保管され、遺言者には正本または謄本が交付されます。
- メリット:
- 法的有効性が極めて高い: 法律の専門家である公証人が作成するため、形式不備で無効になるリスクがほとんどありません。
- 紛失・改ざんのリスクがない: 原本が公証役場に保管されるため、遺言書が失われたり、内容が書き換えられたりする心配がありません。
- 検認手続きが不要: 相続開始後、家庭裁判所での検認手続きを経ることなく、すぐに遺言内容を実行できます。これにより、相続手続きをスムーズに進められます。
- 病気や身体的な理由で文字が書けない場合も作成可能: 口述筆記や代筆によって作成できます。
- 遺言内容について、公証人からアドバイスを受けられます。
- デメリット:
- 費用がかかる: 遺産総額や相続人の数に応じて手数料が変動します。
- 基本手数料(目安): 遺産額100万円以下5,000円、500万円以下11,000円、1,000万円以下17,000円など。遺産総額ではなく、相続人ごとに取得する財産の価額に応じて計算されるケースが多いです。
- 遺言加算: 遺産総額が1億円を超える場合、手数料が加算されます。
- 証人費用: 専門家(弁護士・司法書士など)に依頼した場合、1人あたり5,000円~1万5,000円程度。
- 出張費用: 公証人が自宅や病院に出張する場合、基本手数料の1.5倍に日当(1日2万円、半日1万円)と交通費が加算されます。
- 手間がかかる: 公証役場への出向や、証人の手配が必要です。
- 遺言内容が公証役場に記録されます(秘密保持義務はあります)。
- 費用がかかる: 遺産総額や相続人の数に応じて手数料が変動します。
- 根拠法: 民法第969条(https://laws.e-gov.go.jp/)
2. 自筆証書遺言
- 作成者: 遺言者本人
- 作成手続き:
- 遺言者が全文を自筆し、日付、氏名を書き、
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件については弁護士・税理士・葬儀の専門家にご相談ください。
掲載情報は2026年現在のものです。法改正等により変更となる場合があります。
よくある質問(詳細版)
Q1: 自筆証書遺言の保管制度とはどのようなものですか?費用や利用期限は?
2020年7月10日から始まった自筆証書遺言の保管制度は、遺言者が作成した自筆証書遺言を法務局が保管する制度です。この制度を利用することで、遺言書の紛失、改ざん、隠匿といったリスクを大幅に減らすことができます。また、相続開始後に家庭裁判所での「検認」手続きが不要となる点が大きなメリットです。検認は通常、数週間から数ヶ月かかることがありますが、この制度を利用すればその手間と時間を省けます。利用費用は、遺言書1通につき約3,900円程度(2026年時点)と比較的安価です。利用期限は特に定められておらず、遺言者が存命中はいつでも遺言書の閲覧や撤回・変更が可能です。必要書類としては、本籍の記載がある住民票の写し、本人確認書類(運転免許証など)、印鑑、そして作成した自筆証書遺言書原本が必要となります。この制度の利用は、自筆証書遺言の法的安定性を高める有効な選択肢と言えるでしょう。
Q2: 公正証書遺言の作成にかかる具体的な費用はどのくらいですか?
公正証書遺言の作成費用は、遺言書に記載する財産の価額、相続人の人数、遺言の内容によって変動します。基本手数料は、財産の価額に応じて民法で定められており、例えば、100万円までは約5,000円、100万円を超え200万円までは約7,000円、といった形で加算されます。財産が1億円を超える場合は、さらに高額になります。これに加えて、遺言加算(遺言書全体の価額が1億円を超える場合に加算される手数料)、用紙代、謄本交付手数料、そして証人2名の手配を公証役場に依頼した場合の費用(一人あたり約6,000円程度)などが加算されます。また、病気などで公証役場に出向けない場合に公証人が出張する「出張手数料」も発生します。全体として、一般的なケースでは約数万円から数十万円程度(地域や内容により異なります)の費用がかかることが多いです。
Q3: 遺言書に書けない内容はありますか?例えば、お墓の管理についてなど。
遺言書に記載できる内容は、民法で定められた「法定遺言事項」と、法的な効力はないものの遺言者の意思を伝える「付言事項」に大別されます。法定遺言事項には、財産の分配(相続分の指定、遺贈)、遺言執行者の指定、認知、未成年後見人の指定など、法的な効力を持つ事項が含まれます。一方、「お墓の管理」や「ペットの世話」に関する希望、あるいは「家族への感謝の言葉」などは、法的な強制力を持つ遺言事項ではありません。これらは「付言事項」として記載することができ、遺言者の意思を伝える上で非常に有効です。法的な効力はないものの、相続人に対する遺言者の真意を伝え、円滑な相続手続きや家族間の紛争防止に役立つことがあります。ただし、遺言書の本文中に付言事項を記載する際は、法定遺言事項と明確に区別して記載することが望ましいです。
Q4: 遺言書作成後に内容を変更したい場合、どうすれば良いですか?
遺言書は、遺言者が亡くなるまでいつでも、その全部または一部を撤回・変更することが可能です。変更方法は、遺言書の種類によって異なります。公正証書遺言の場合、改めて公証役場で新しい公正証書遺言を作成するか、現在の遺言書を撤回する公正証書を作成します。費用は新規作成時と同様に発生します。自筆証書遺言の場合は、新しい自筆証書遺言を作成し、以前の遺言書を撤回する旨を明記するか、以前の遺言書を破棄します。ただし、破棄する場合は、本当に遺言者の意思で破棄されたのかが問題になる可能性もあるため、新しい遺言書を作成し、その中で以前の遺言を撤回する旨を明記する方が確実です。法務局に保管されている自筆証書遺言を撤回する場合は、法務局で撤回の手続きを行う必要があります。複数の遺言書が存在し、内容が矛盾する場合は、原則として日付が新しい遺言書が優先されます。
Q5: 遺言書が見つかった場合、まず何をすべきですか?検認手続きについて教えてください。
遺言書が見つかった場合、まずその遺言書が「公正証書遺言」か「自筆証書遺言」かを確認することが重要です。公正証書遺言の場合、公証役場に原本が保管されているため、家庭裁判所での検認手続きは不要です。しかし、自筆証書遺言(法務局での保管制度を利用していないもの)の場合、封印されているか否かにかかわらず、家庭裁判所に提出して「検認」を受けなければなりません。検認とは、遺言書の現状を保全し、偽造・変造を防ぐための手続きであり、遺言書の有効・無効を判断するものではありません。検認を経ずに遺言を執行すると、過料の対象となる可能性があります。検認を申し立てるには、遺言書、申立人の戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本などが必要で、手続きには約1ヶ月から数ヶ月程度の期間を要します。検認後、家庭裁判所から検認済証明書が付与され、初めて遺言書に基づいて相続手続きを進めることができます。
Q6: 遺言執行者とは何ですか?誰を選任すべきですか?
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。具体的には、相続財産の調査、相続人への遺言内容の通知、預貯金の解約、不動産の名義変更、遺贈の手続き、債務の弁済など多岐にわたります。遺言執行者は、遺言書で指定することができます。未成年者や破産者でなければ、誰でも遺言執行者になることができますが、相続人の中から選任することも可能ですし、弁護士、司法書士、行政書士といった専門家を選任することも一般的です。専門家を選任するメリットは、相続に関する専門知識と経験を持っているため、複雑な手続きを円滑かつ正確に進められる点にあります。特に、相続人間に紛争の可能性がある場合や、財産の種類が多い場合、相続人が遠方に住んでいる場合などには、専門家への依頼を検討すると良いでしょう。専門家への依頼費用は、遺産総額に応じて約数十万円から数百万円程度(内容により異なります)かかる場合があります。
Q7: 遺言書で遺留分を侵害する内容を書いた場合、どうなりますか?
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に法律で保障された最低限の相続割合のことです。例えば、配偶者や子には遺留分があります。遺言書で特定の相続人に全財産を遺贈するなどして、他の相続人の遺留分を侵害する内容が書かれていたとしても、その遺言書自体が無効になるわけではありません。しかし、遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害した相手に対し、「遺留分侵害額請求」を行うことができます。この請求は、遺留分を侵害されたことを知った時から1年以内、または相続開始から10年以内に行う必要があります。請求を受けた側は、遺留分侵害額に相当する金銭を支払う義務が生じます。遺留分侵害額請求は、相続人間に深刻な紛争を引き起こす原因となることが多いため、遺言書を作成する際には、遺留分に配慮した内容とすることが望ましいです。不安な場合は、専門家へ相談することをお勧めします。
比較・選択肢の整理
よくある質問(詳細版)
Q1: 自筆証書遺言の保管制度とは何ですか?利用するメリットは?
A1: 自筆証書遺言の保管制度は、遺言者が作成した自筆証書遺言を法務局が保管する制度です。2020年7月10日に施行された「法務局における遺言書の保管等に関する法律」に基づきます。この制度を利用すると、遺言書の紛失や隠匿、改ざんのリスクを防ぐことができ、また、相続開始後の家庭裁判所による検認手続きが不要になるという大きなメリットがあります。費用は遺言書1通につき約3,900円程度(2026年時点)と公正証書遺言に比べて安価であり、手軽に利用できるのが特徴です。保管の申請には、遺言書原本、本籍地の記載がある住民票、顔写真付きの身分証明書、印鑑などが必要です。
Q2: 遺言書作成後に財産状況や意思が変わった場合、どうすれば良いですか?
A2: 遺言書は、遺言者の意思を最終的に反映するものであるため、作成後に財産状況や相続に関する意思が変わった場合は、遺言書を書き直すか、変更・撤回の手続きを行う必要があります。新しい遺言書を作成すれば、原則として日付の新しいものが優先されますが、内容が矛盾する場合は解釈が複雑になることがあります。そのため、既存の遺言書を明確に撤回し、新たに遺言書を作成するのが最も確実です。公正証書遺言の場合は再度公証役場に出向き、新たな公正証書遺言を作成します。自筆証書遺言の場合は、新しい遺言書を作成し、以前のものを破棄するか、新しい遺言書で以前の遺言を撤回する旨を明記します。
Q3: 遺言書に記載できない内容はありますか?
A3: 遺言書に記載できる内容は、民法で定められた事項に限定されます。具体的には、財産の処分(遺贈、相続分の指定)、子の認知、未成年後見人の指定、遺言執行者の指定、祭祀主宰者の指定などです。これら以外の、例えば「〇〇と結婚してほしい」「〇〇の会社を辞めてほしい」といった、法的拘束力のない事項や公序良俗に反する内容は記載しても無効となります。また、遺言書はあくまで遺言者個人の意思表示であるため、複数の人が共同で一つの遺言書を作成する「共同遺言」も禁止されています。遺言書は遺言者の最終意思を尊重するものであり、その有効性には一定のルールがあることを理解しておく必要があります。
Q4: 遺言書がない場合、相続手続きはどうなりますか?
A4: 遺言書がない場合、相続は民法で定められた法定相続のルールに従って行われます。具体的には、相続人の範囲と相続分が法律で決められており、遺産分割協議によって相続人全員の合意のもとで遺産の分け方を決定します。この遺産分割協議は相続人全員が参加し、一人でも欠けたり合意が得られなかったりすると、遺産分割協議書を作成することができません。結果として、手続きが長期化したり、相続人同士の争いに発展したりするリスクが高まります。特に不動産の名義変更や預貯金の引き出しには、遺産分割協議書が必須となるため、遺言書がない場合は多大な手間と時間を要することが多いです。
Q5: 遺言執行者とは何ですか?誰を選任できますか?
A5: 遺言執行者とは、遺言書の内容を具体的に実現するための手続きを行う人のことです。例えば、預貯金の解約や不動産の名義変更、遺贈の実行など、相続財産に関する様々な手続きを遺言執行者が行います。遺言書で指定されていれば、相続人や受遺者、弁護士、司法書士、信託銀行など、未成年者と破産者以外の誰でも遺言執行者になることができます。特に、相続人同士のトラブルを避けたい場合や、手続きが複雑な場合は、弁護士や司法書士などの専門家を遺言執行者に指定することが推奨されます。遺言執行者がいることで、スムーズかつ円滑な遺言内容の実現が期待できます。
Q6: 公正証書遺言の証人は誰でもなれますか?
A6: 公正証書遺言を作成する際には、2人以上の証人が必要です。ただし、誰でも証人になれるわけではなく、民法第970条および第971条により、一定の欠格事由が定められています。具体的には、未成年者、推定相続人(遺言者の配偶者、子、直系尊属など)、受遺者(遺言により財産を受け取る人)、これらの配偶者及び直系血族は証人になることができません。これは、証人が遺言内容に利害関係を持つことで、遺言の公平性が損なわれることを防ぐためです。通常、公証役場で手配を依頼するか、弁護士や司法書士などの専門家が証人を務めることが多いです。証人には、遺言内容の確認と署名・押印の義務があります。
比較・選択肢の整理
| 項目 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
|---|---|---|
| 費用 | 約3万円〜数十万円程度(財産額による) | 約0円〜数千円(保管制度利用時は約3,900円程度) |
| 期間 | 1ヶ月〜数ヶ月(公証役場との調整含む) | 数日〜数週間(自分で作成する時間) |
| メリット | 法的有効性が極めて高い。紛失・改ざんリスクがない。検認不要。 | 費用が安価。手軽に作成できる。秘密保持性が高い(保管制度利用前)。 |
| デメリット | 費用がかかる。証人が必要。作成に手間と時間がかかる。 | 形式不備で無効リスク。紛失・改ざんリスク。検認が必要(保管制度利用しない場合)。 |
| こんな人向け | 確実に遺言を残したい。相続財産が多い。相続人間での争いを避けたい。 | 費用を抑えたい。手軽に作成したい。公証役場に行く時間がない。 |
事前準備チェックリスト
遺言書作成に向けて、以下の項目を確認し、準備を進めましょう。
- □ 遺言書の種類を決定する(公正証書遺言か自筆証書遺言か)
- □ 相続財産目録を作成する(不動産、預貯金、有価証券、貴金属など)
- □ 債務(借金など)の有無と内容を確認する
- □ 相続人の範囲と順位を確認する(戸籍謄本等で調査)
- □ 遺言内容を具体的に検討する(誰に何をどれだけ残すか)
- □ 遺留分に配慮した内容になっているか確認する
- □ 遺言執行者を誰にするか検討する(専門家への依頼も視野に)
- □ 公正証書遺言の場合:証人2名の手配を検討する(公証役場への依頼、専門家への相談など)
- □ 公正証書遺言の場合:公証役場に事前予約を入れる(通常1ヶ月前まで)
- □ 公正証書遺言の場合:必要書類を準備する(印鑑登録証明書、実印、身分証明書、不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し、相続人との関係を示す戸籍謄本など)
- □ 自筆証書遺言の場合:法務局の保管制度を利用するか検討する
- □ 自筆証書遺言の保管制度利用の場合:必要書類を準備する(本籍地の記載がある住民票、顔写真付きの身分証明書、印鑑など)
- □ 遺言書の保管方法を検討する(自宅保管、専門家への依頼、法務局保管など)
- □ 遺言書作成後、関係者へその存在を伝えるか否かを検討する
※情報は公的資料を参考にまとめたものです。最新の状況は各窓口にてご確認ください。
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