大切な方を亡くされた悲しみの中、慣れない相続手続きに追われ、心身ともにお疲れのことと存じます。特に相続税の申告は、その複雑さから「これで合っているのだろうか」と不安に感じる方も少なくありません。
もし申告内容に誤りがあり、本来納めるべき税額より少なかった場合、後日、税務署から指摘を受け、ペナルティとして追加の税金(追徴課税)が課せられてしまうことがあります。
この記事では、国民生活センターなどに実際に寄せられた相談事例を基に、相続税の過少申告でペナルティを受けてしまった3つのケースをご紹介します。他の方の失敗から学ぶことで、ご自身の相続手続きをより慎重に進める一助となれば幸いです。
【PR】本記事にはプロモーションが含まれます。なぜこのトラブルが起きるのか
相続税の申告漏れや計算ミスは、なぜ起きてしまうのでしょうか。その背景には、相続財産の範囲と評価方法の複雑さがあります。
多くの方が「預貯金や不動産が財産のすべて」と考えがちですが、税法上、相続財産とみなされるものはそれだけではありません。亡くなる前3年以内(※2027年以降は段階的に7年以内に延長)の贈与や、ご家族名義になっていても実質的には故人が管理していた「名義預金」、生命保険金なども対象に含まれる場合があります。これらの財産を計上し忘れることが、過少申告の主な原因の一つです。
また、土地などの不動産の評価も専門的な知識を要します。固定資産税の評価額をそのまま使って申告してしまうケースが散見されますが、相続税の計算では原則として「路線価」という別の基準を用いるため、評価額が大きく異なり、結果として申告漏れにつながることがあります。
相続手続きは一生のうちに何度も経験するものではないため、多くの方が知識や経験に不安を抱えています。その中で自己判断で申告を進めてしまうことが、意図せずして過少申告という結果を招いてしまう構造的な要因といえるでしょう。
実際にあった相談事例 3選
ここでは、実際にあった3つの相談事例を匿名化したうえでご紹介します。どのような点でつまずき、どうすれば防げたのかを見ていきましょう。
ケース1: 50代男性Aさん(関東在住)「良かれと思ってした生前贈与が裏目に…」
相談内容
Aさんは、数年前に亡くなった父の相続税申告を、費用を抑えるために自分自身で行いました。預貯金や不動産をリストアップし、申告書を作成して納税を済ませ、手続きは無事に終わったものと考えていました。しかし約2年後、税務署から「お尋ね」という形で連絡があり、税務調査が行われることに。調査の結果、父が亡くなる2年前にAさんが受け取っていた150万円の贈与と、母名義でありながら実質的には父が管理していた預金(名義預金)が申告から漏れていることを指摘されました。Aさん自身、これらの財産が相続税の対象になるとは全く認識していませんでした。結果的に、修正申告を行い、本来の税額に加え、過少申告加算税と延滞税を支払うことになってしまいました。
なぜこうなったか
このケースの失敗要因は、相続税の課税対象となる財産の範囲について、Aさんの認識が十分でなかった点にあります。相続開始前3年以内の贈与は、相続税の課税価格に加算して計算する必要がありましたが、そのルールを知らなかったのです。また、専業主婦である母名義の多額の預金が、実質的には父の財産(名義預金)と判断される可能性についても見落としていました。
教訓
* 亡くなる前3年以内(2027年以降は段階的に7年以内に延長)の贈与は、相続税の課税対象に加算されることを理解しておく。
* 家族名義の預金でも、その原資や管理状況によっては故人の財産(名義預金)とみなされるリスクがあることを知る。
* 生命保険金や死亡退職金にも非課税枠を超える部分は課税対象となるため、漏れなく計上する。
* 少しでも判断に迷う財産がある場合は、税理士などの専門家に相談することが賢明。
出典: 国税庁 タックスアンサー 相続税
ケース2: 60代女性Bさん(関西在住)「不動産の評価額を間違えて多額の追徴課税」
相談内容
Bさんは、父親から相続した土地と建物の相続税申告にあたり、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書に記載された評価額を基に計算を行いました。それが公的な評価額なのだから問題ないだろう、と考えてのことでした。しかし後日、税務調査で土地の評価方法が誤っていると指摘を受けました。Bさんが相続した土地は「路線価」方式で評価すべき地域にあり、固定資産税評価額よりもかなり高い評価額となることが判明。その結果、相続財産の総額が大幅に増え、数百万円単位の追徴課税を納めることになってしまいました。
なぜこうなったか
相続税における土地の評価は、固定資産税の評価とは異なるルールで行われます。市街地にある宅地の多くは、国税庁が定める「路線価」を基に評価額を算出しますが、Bさんはこの原則を知らず、より低い固定資産税評価額を用いてしまったことが原因です。土地の形状や立地条件によって評価額は複雑に変動するため、専門家でなければ正確な評価は難しいのが実情です。
教訓
* 相続税の土地評価は、原則として「路線価方式」または「倍率方式」で行われ、固定資産税評価額とは異なることを認識する。
* 路線価は国税庁のウェブサイトで確認できるが、土地の形状(不整形地など)による補正計算は非常に専門的。
* 不動産、特に土地を相続した場合は、自己判断せず、原則として相続税に詳しい税理士に評価を依頼する。
出典: 国税庁 財産評価
ケース3: 40代男性Cさん(中部地方在住)「家族のための貯金が『名義預金』と判断された」
相談内容
Cさんの父親は生前、Cさんの子どもたち(父から見れば孫)名義の預金口座を作り、将来の学費として定期的にお金を振り込んでいました。父親が亡くなった際、Cさんはこれらの口座を「孫への贈与であり、孫自身の財産」だと考え、相続財産には含めずに申告しました。しかし、税務調査でこれらの預金が父親の「名義預金」であると判断されてしまいました。その理由は、通帳や印鑑を父親自身が管理しており、孫たちがお金を自由に使えない状態だったためです。結局、孫名義の預金もすべて父親の相続財産に含めて修正申告することになり、追徴課税は数百万円に上りました。
なぜこうなったか
名義が誰であるかよりも、「誰がその財産を実質的に支配・管理していたか」が税務上の判断基準となります。このケースでは、口座の名義は孫でも、通帳・印鑑の管理や入出金をすべて祖父(故人)が行っていたため、実質的な所有者は祖父であるとみなされました。たとえ善意の貯蓄であっても、形式的な贈与が成立していないと判断されると、相続財産として扱われてしまいます。
教訓
* 通帳や印鑑を本人が管理し、自由に使えない状態の家族名義預金は「名義預金」として相続財産とみなされる可能性が高い。
* 生前に贈与を行う場合は、贈与契約書を作成したり、お金を渡した事実がわかるように記録を残したりするなど、贈与が成立していることを客観的に証明できる形にしておく。
* 生前から、財産の名義と実質的な所有者を一致させておくことが、将来の相続トラブルを避けるための重要な対策となる。
出典: 国税庁 相続税の課税対象
3つの事例に共通する失敗パターン
ご紹介した3つの事例には、いくつかの共通する失敗パターンが見られます。
第一に、「相続財産の範囲」に関する認識の誤りです。ケース1の生前贈与やケース3の名義預金のように、自分たちの家族にとっては「故人の財産ではない」という認識でも、税法上は相続財産に含まれるものが存在します。このギャップが、申告漏れの大きな原因となっています。
第二に、「財産の評価方法」に関する知識不足です。特にケース2の不動産評価は典型例で、専門的な知識がなければ正確な評価は困難です。良かれと思って用いた公的な数字(固定資産税評価額)が、相続税の計算では通用しないという事実は、一般の方にはなかなか知られていません。
そして最も根底にあるのが、「専門家への相談をためらい、自己判断で進めてしまった」という点です。費用を節約したい、手続きを早く終わらせたいという気持ちは理解できますが、その結果として、後から本来払う必要のなかったペナルティ(加算税や延滞税)を支払うことになっては本末転倒です。相続税は、専門家である税理士でさえ判断に迷うことがあるほど複雑な税制なのです。
失敗を避ける実践チェックリスト
ご自身の相続手続きで同じような失敗を繰り返さないために、以下の項目をチェックしてみてください。
- [ ] 財産目録の作成: 故人が所有していた財産(預貯金、不動産、有価証券、生命保険など)をすべてリストアップしましたか?
- [ ] 生前贈与の確認: 亡くなる前3年以内(2027年以降は段階的に7年以内に延長)に、相続人に対して行われた贈与はありませんか?
- [ ] 名義預金の確認: 家族名義の預貯金で、実質的に故人が管理・支配していたものはありませんか?(通帳・印鑑の管理者、入金の原資などを確認)
- [ ] 土地評価の確認: 相続財産に土地が含まれる場合、その評価方法(路線価方式か倍率方式か)を確認しましたか?固定資産税評価額をそのまま使っていませんか?
- [ ] 債務・葬式費用の確認: 故人の借入金や未払金、支払った葬式費用など、財産から控除できる項目を漏れなく計上していますか?
- [ ] 遺言書の確認: 遺言書がある場合、その内容が特定の相続人の遺留分を侵害していないか確認しましたか?専門家によると、たとえ「全財産を長男に」という遺言があっても、他の相続人(配偶者や子など)には法律で保障された最低限の取り分(遺留分)があり、これを無視すると後々トラブルになる可能性があるとのことです。
- [ ] 専門家への相談: 上記の項目で一つでも不安な点があれば、相続税に詳しい税理士に相談することを検討しましたか?
もしトラブルに遭ったら: 相談窓口
万が一、相続に関するトラブルに直面したり、手続きに不安を感じたりした場合は、一人で抱え込まずに専門の窓口に相談しましょう。
- 消費者ホットライン 188 (いやや)
身近な消費生活相談窓口を案内してくれる全国共通の電話番号です。どこに相談してよいか分からない場合にまずかけてみましょう。 - 最寄りの消費生活センター
各市区町村に設置されており、商品やサービスに関するトラブル全般について、専門の相談員が対応してくれます。 - 国民生活センター 越境消費者相談(CCJ)
海外の事業者とのトラブルに関する相談を受け付けています。 - 弁護士会 法律相談センター
各都道府県の弁護士会が運営する相談窓口です。相続に関する法的な問題について、弁護士に直接相談することができます。
よくある質問 (FAQ)
Q1. 税務調査は、申告してからどのくらいの時期に来ることが多いですか?
A1. 一概には言えませんが、一般的には相続税の申告期限から1年~2年後に行われることが多いとされています。申告内容に不明な点があったり、多額の財産が動いていたりする場合に調査の対象となりやすい傾向があります。忘れた頃に連絡が来ることがあるため、申告に関する資料は少なくとも5年間は大切に保管しておくことをお勧めします。
Q2. 過少申告加算税は、どのくらいの金額になるのでしょうか?
A2. 過少申告加算税は、原則として、新たに追加で納めることになった税額の10%です。ただし、追加の税額が当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については15%の税率が適用されます。税務調査の通知を受ける前に、自主的に修正申告をすれば、この加算税は課されません。
Q3. 修正申告は自分でもできますか?
A3. 修正申告書を自分で作成し、提出することは可能です。しかし、税務署から指摘を受けた内容は専門的であることが多く、なぜ修正が必要なのか、他に漏れはないかを正確に理解して対応するのは簡単ではありません。追加のペナルティを避けるためにも、税務調査の連絡があった時点、あるいは修正申告が必要になった時点で、速やかに税理士に相談するのが賢明な対応といえるでしょう。
Q4. 借金の方が多い場合、相続放棄はいつまでにすればよいですか?
A4. 相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所に申し立てる必要があります。実務上、この「知った時」というのが重要で、故人の死亡日から3ヶ月とは限りません。例えば、故人と疎遠で死亡の事実を後から知った場合は、その知った日から起算されます。また、多額の借金の存在を知らなかった場合など、事情によっては3ヶ月を過ぎていても放棄が認められるケースもありますので、諦めずに弁護士へ相談することが大切です。
Q5. そもそも相続税がかかるかどうかの目安はありますか?
A5. 相続税には「基礎控除」という非課税枠があります。2026年現在、基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算されます。遺産の総額がこの基礎控除額以下であれば、相続税はかからず、申告も原則として不要です。例えば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、基礎控除額は4,800万円となります。ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを適用して納税額がゼロになる場合は、申告そのものは必要ですのでご注意ください。
まとめ
相続税の申告は、大切な方を亡くされたご遺族にとって、精神的にも時間的にも大きな負担となる手続きです。今回ご紹介した事例のように、少しの認識違いや知識不足が、後々の大きな金銭的負担につながってしまう可能性があります。
最も重要なことは、財産の範囲や評価方法に少しでも不安を感じたら、自己判断で進めずに専門家である税理士に相談することです。初回相談は無料で行っている事務所も多くあります。専門家の力を借りることは、決して特別なことではありません。むしろ、ご家族が安心して故人を偲ぶ時間を確保し、将来の余計なトラブルを避けるための、最も確実な方法の一つといえるでしょう。
執筆者: お葬式.info編集部
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