大切なご家族を亡くされ、深い悲しみの中、様々な手続きに追われていることと存じます。あるいは、ご自身の「もしも」の時に備え、終活について情報収集されている方もいらっしゃるかもしれません。
近年、認知症対策や円滑な資産承継の手段として「家族信託」が注目されています。しかし、その一方で、設計や運用を誤ったことによるトラブルも少なくありません。
この記事では、国民生活センターなどに実際に寄せられた相談事例を基に、家族信託で起こりがちな失敗パターンとその対策を解説します。この記事が、皆様が後悔のない選択をするための一助となれば幸いです。
【PR】本記事にはプロモーションが含まれます。なぜこのトラブルが起きるのか
家族信託は、ご自身の財産を信頼できる家族に託し、管理や処分を任せる仕組みです。認知症による資産凍結を防いだり、遺言書では実現しにくい柔軟な資産承継を可能にしたりと、多くのメリットがあります。
しかし、その有効性の裏側には、制度の複雑さが潜んでいます。家族信託は、民法、信託法、税法など複数の法律が複雑に絡み合う、専門性の高い分野です。インターネットで得られる情報や雛形だけを頼りに、ご自身で契約書を作成してしまうと、法的な要件を満たせず、いざという時に機能しないという事態に陥りかねません。
また、「家族」という近しい関係性だからこそ、お金の話が曖昧になったり、他の親族への配慮が欠けたりすることで、感情的な対立に発展しやすいという構造的な要因もあります。良かれと思って始めた家族信託が、かえって家族の絆を壊すきっかけになってしまう。そんな悲しい事態を避けるためには、導入前の慎重な検討と専門家のサポートが不可欠なのです。
実際にあった相談事例 3選
ここでは、公的機関に寄せられた相談の中から、特に注意すべき3つのケースをご紹介します。
ケース1: 60代男性Aさん(首都圏在住)「自作の契約書が原因で、口座が凍結してしまった」
相談内容
Aさんは、将来の認知症に備え、父親の財産管理のために家族信託の利用を決めました。費用を抑えようとインターネットで調べた雛形を参考に、ご自身で信託契約書を作成。父親を委託者、Aさんを受託者として契約を結びました。しかし、その後、父親が認知症を発症。信託契約に基づき、信託口口座(信託財産を管理するための専用口座)を開設しようと銀行へ行ったところ、「契約書の条項に不備がある」として手続きを断られてしまいました。修正しようにも、委託者である父親はすでに意思能力が低下しており、契約内容の変更はできません。結果として、父親の預金口座は凍結され、介護費用などを引き出せないという深刻な事態に陥ってしまいました。
なぜこうなったか
このケースの失敗要因は、専門家のチェックを受けずに、インターネット上の雛形だけで契約書を作成してしまった点にあります。金融機関は、信託契約書の内容を厳しく審査します。信託の目的、信託財産、受託者の権限などが法的に有効かつ明確に記載されていないと、手続きを受け付けません。特に、不動産の名義変更(信託登記)や信託口口座の開設には、司法書士や弁護士が作成した、精度の高い契約書が求められることが一般的です。
教訓
* 家族信託の契約書は、原則として信託に詳しい司法書士や弁護士などの専門家に作成を依頼する。
* 契約締結前に、取引予定の金融機関に契約書案を確認してもらい、手続きが可能か照会しておく。
* 費用だけで判断せず、将来のリスクを回避するための専門家のサポートを重視する。
出典: 法テラス 法律問題
ケース2: 50代女性Bさん(関西在住)「兄弟間の対立で、裁判にまで発展してしまった」
相談内容
Bさんの母親は、長男を受託者として、自宅不動産と預貯金を管理する家族信託契約を結びました。しかし、信託が開始されてから、長男からの財産状況に関する報告が一切なく、Bさんや他の兄弟が問い合わせても「任されているから大丈夫だ」と曖昧な返答を繰り返すばかりでした。次第に、「兄が財産を私的に流用しているのではないか」という疑念が兄弟間に広がり、家族会議を開いても話し合いは決裂。不信感は頂点に達し、Bさんたちは信託契約の解除と財産の返還を求めて、長男を相手に訴訟を起こすことになってしまいました。
なぜこうなったか
このトラブルの根源は、受託者の選定と運用の透明性に関する家族間の合意形成が不十分だったことにあります。委託者である母親と長男だけで話を進めてしまい、他の相続人である兄弟への説明や同意を得るプロセスを省略したことが、後の不信感につながりました。また、契約書に受託者の報告義務や、財産管理をチェックする監督人(信託監督人)についての定めがなかったことも、問題を大きくした要因です。
教訓
* 受託者を選任する際は、候補者の能力や人柄を考慮し、推定相続人全員で話し合い、合意の上で決定する。
* 信託契約書に、受託者が他の家族へ定期的に財産状況を報告する義務を明記する。
* 必要に応じて、弁護士や司法書士などを「信託監督人」として指定し、第三者の目で財産管理を監督する仕組みを導入する。
出典: 裁判所 家事事件
ケース3: 70代男性Cさん(中部地方在住)「税金のことを考えず、想定外の負担が発生した」
相談内容
Cさんは、長男を受託者として、ご自身の自宅不動産を信託財産とする家族信託を設定しました。認知症になった後も、長男がスムーズに自宅を売却して介護施設への入居費用に充てられるように、との思いからでした。しかし、信託の設計段階で税務面の検討が全くされていませんでした。後日、信託した自宅を売却した際に、居住用財産の譲渡所得の特別控除(3,000万円控除)が適用されないことが判明。さらに、信託契約の内容によっては、信託を設定した時点で贈与税が課されるケースもあることを知り、想定外の税負担に頭を抱えることになりました。
なぜこうなったか
家族信託は、資産承継のスキームであると同時に、様々な税金が関わってくる複雑な取引です。このケースでは、信託契約の設計時に税理士が関与しておらず、税務上のリスクが全く考慮されていなかったことが失敗の原因です。特に不動産が絡む信託では、所得税(譲渡所得)、贈与税、相続税、登録免許税、固定資産税など、多岐にわたる税金への配慮が不可欠です。どのタイミングで、誰に、どのような税金がかかるのかを事前にシミュレーションせずに進めてしまうと、後で大きな問題となります。
教訓
* 家族信託を検討する際は、司法書士や弁護士だけでなく、原則として信託税務に詳しい税理士にも相談する。
* 信託契約を設計する段階で、将来起こりうる資産の売却や相続発生時までの税務シミュレーションを行う。
* 特に不動産を信託財産に含める場合は、税務上の特例が適用できるかなどを慎重に確認する。
出典: 国税庁 タックスアンサー
3つの事例に共通する失敗パターン
ご紹介した3つの事例には、いくつかの共通する失敗パターンが見られます。
第一に、「専門家への相談不足」です。費用を抑えたいという気持ちは理解できますが、自己判断で進めた結果、法的に無効な契約書になったり、後でより大きな費用(税金や訴訟費用)が発生したりするリスクがあります。家族信託は、法律と税務の専門家チーム(弁護士、司法書士、税理士など)と連携して進めるべき手続きです。
第二に、「家族間のコミュニケーション不足」です。委託者と受託者だけで話を進め、他の家族(推定相続人)への説明や合意形成を怠ると、原則としてと言っていいほど後で揉め事になります。「財産管理が不透明だ」「なぜあの人だけが」といった不信感は、一度生まれると解消が困難です。
第三に、「長期的な視点の欠如」です。信託は一度設定すると10年、20年と続く可能性があります。その間に発生しうる税金の問題、受託者が先に亡くなる可能性、家族関係の変化などを想定せずに設計すると、将来的に行き詰まってしまいます。
専門家の見地によると、これは遺言書の作成にも通じる問題です。例えば「全財産を長男に相続させる」という遺言書は一見有効に見えますが、他の兄弟姉の遺留分(法律で保障された最低限の相続分)を侵害している場合、後から「遺留分侵害額請求」という法的な争いに発展する可能性があります。家族信託も遺言書も、目先のことだけでなく、関わる全ての人の権利や感情に配慮し、法的なリスクを洗い出した上で設計することが極めて重要です。
失敗を避ける実践チェックリスト
これから家族信託を検討される方が、同じような失敗を繰り返さないために、以下のチェックリストをご活用ください。
- [ ] なぜ家族信託を利用したいのか、目的は明確になっていますか?
- [ ] 家族信託に詳しい弁護士や司法書士、税理士に相談しましたか?
- [ ] 受託者の候補者について、推定相続人全員で話し合い、合意は得られていますか?
- [ ] 信託する財産の範囲は適切ですか?(全ての財産を信託する必要はありません)
- [ ] 受託者の権限や義務(報告義務など)について、契約書に具体的に定めますか?
- [ ] 信託監督人など、受託者を監督する仕組みは検討しましたか?
- [ ] 信託設定時、運用中、終了時にかかる税金について、税理士に確認しましたか?
もしトラブルに遭ったら: 相談窓口
すでに家族信託に関するトラブルに直面してしまった場合や、契約内容に不安がある場合は、一人で抱え込まずに専門機関へご相談ください。
- 消費者ホットライン 188 (いやや)
地方公共団体が設置している身近な消費生活センターや消費生活相談窓口を案内してくれます。 - 最寄りの消費生活センター
商品やサービスなど消費生活全般に関する苦情や問い合わせについて、専門の相談員が対応してくれます。 - 国民生活センター 越境消費者相談(CCJ)
海外の事業者とのトラブルについて相談できる窓口です。 - 弁護士会 法律相談センター
法律問題全般について、弁護士に直接相談することができます。初回は無料や安価で相談できる場合もあります。
よくある質問 (FAQ)
Q1. 家族信託と成年後見制度の違いは何ですか?
A1. 主な違いは、柔軟性と財産活用の自由にあります。成年後見制度は、本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任し、財産を「守る」ことを主目的とします。そのため、不動産の売却など積極的な資産活用には裁判所の許可が必要で、手続きが硬直的になりがちです。一方、家族信託は本人の意思が明確なうちに契約を結び、財産を「活用する」ことも含めて、柔軟な管理を家族に託せる点が特徴です。
Q2. 受託者は誰でもなれますか?
A2. 原則として、信頼できる家族や親族を受託者に指定します。ただし、未成年者や破産者は受託者になることができません。受託者には、財産を適切に管理・運用する責任と能力が求められます。また、受託者が委託者より先に亡くなる可能性も考慮し、次の受託者(第二受託者)を定めておくことも重要です。一人に責任が集中しすぎないよう、複数人を受託者にすることも可能です。
Q3. 信託財産に借金が含まれていたらどうなりますか?
A3. 家族信託では、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、ローンなどのマイナスの財産(債務)も信託財産に含めることができます。ただし、債権者(金融機関など)の同意が必要になる場合があります。万が一、信託開始後に想定外の多額の借金が判明した場合、相続人は相続放棄を検討することになります。実務上、相続放棄の期限は「相続の開始を知った日」から3ヶ月ですが、事情によっては期限後も認められるケースがあります。専門家によると、借金の存在を知った日から起算できる場合もあるため、諦めずに弁護士へ相談することが推奨されます。
Q4. 家族信託を始めたら、途中でやめられますか?
A4. はい、信託契約書に定めた条件や方法に従って、信託を終了させることは可能です。例えば、「委託者と受益者の合意があった場合」や「信託の目的を達成した場合」などを終了事由として定めておくのが一般的です。ただし、一度信託した不動産の名義を元に戻す際には、再度、登録免許税などの費用がかかります。安易に開始・終了するのではなく、長期的な視点で慎重に計画することが大切です。
Q5. 遺言書があれば家族信託は不要ですか?
A5. 遺言書と家族信託は、それぞれ役割が異なります。遺言書は、亡くなった後の財産の分け方を指定するものですが、生前の財産管理や認知症対策には対応できません。一方、家族信託は生前の財産管理から亡くなった後の資産承継まで、長期にわたる設計が可能です。どちらか一方ではなく、両方を組み合わせることで、より盤石な対策を講じることができます。例えば、信託しなかった財産の行方を遺言書で定める、といった活用法が考えられます。
まとめ
家族信託は、正しく設計・運用すれば、ご本人とご家族の未来を守るための非常に有効なツールです。しかし、その裏には専門的な知識不足や家族間のコミュニケーション不足による落とし穴も存在します。
今回ご紹介した事例のように、「費用を節約したつもりが、かえって高くついた」「良かれと思ったことが、家族の争いの種になった」という事態を避けるために、原則として専門家の助けを借り、ご家族全員で納得のいくまで話し合う時間を設けてください。それが、後悔のない、円満な資産承継への第一歩となります。
お葬式.info編集部
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